
岩本貴志
「都会のオオタカ、繁殖の記録」40 エピローグ、つながっていく生命
更新日:2022年7月23日
「都会に進出した猛禽、オオタカの物語」
このブログでは、2017年7月から2018年12月までの間、都会の公園の中、管理人の目の前で繰り広げられた野生のドラマ、オオタカの生き様を紹介しています。

いつものメスとは別人?
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完全に去っていった幼鳥たち。
これは、幼鳥が完全にオオタカの森を去ってからのお話。

枝折の行動をオスに見せるメス
昨年(2017年)同様、10月、メスが枝折りの行動を見せて、オスに対して「また来年、ここで繁殖しようね!」と意思表示を見せる行動が見られた。
管理人は、儀式化された、メスがオスに対して行なう、意思表示行動とみている。
2年間にわたって繁殖に成功したこの森、来年もきっとここで繁殖していく事だろう。
この意思表示行動が見られた日から、メスは再び、オオタカの森から姿を消した。
そんなやり取りがあってから2週間ほど経った11月半ばのある日。
近くの森で、オオタカが番いでいるところを見つけた。
オスはここを縄張りに持つ、いつものオスのようだ。
メスのほうはというと、「あれ?!いつものメスと違う!」
確証は持てないのだが、メスのほうは、どうも他所からやって来た者のようにも見える。
オスは、よそ者のメスでも繁殖期でなければ追い出したりはしないのだろう。
というか、番いの相手がいないからなのだろうか?
番い相手のメスも、どこで何してるかも知れないし。
他のメスを受け入れる事は、繁殖のために、オスにとってはデメリットよりもメリットのほうが大きそうだ。
相方のメスが事故にあったり、怪我をしてしまったり、はたまた何かの理由でもどってこなかった時のための保険のようなものだろうか?
こんなオスとメスが番いでいる光景は、数日の間、続けて見られた。
もしかしたら、この間繁殖場所周辺の、オオタカ事情の調査をしているのかもしれない。
そんな間、オスは縄張り、来年の繁殖場所の見張りなのだろう。
といった場合、新たなオスとメスの出会いが、あちこちであるという事にもなる。

新たにやって来たメスの気を引くためか、はたまた第一妻のためか。
オオタカのオスは何か相方メスにビッグプレゼントを画策しているようだ。
もしくは、新たにやって来たメスにお願いされたのかもしれない。
そのプレゼントとは、左(上)写真のコガモ。
ボリュームもあって、油が乗ってきっとおいしい事だろう。
狩った事の無い獲物を狙うとは、新たにやって来たメスへのプレゼントといったほうが理にかなう気がする。
「こんな大きな獲物が捕まえられるんだぞ!」と、自分自身の強さのアピールでもあるのだろう。
といっても、コガモは水鳥、地上にいる事は殆ど無い。
果たして水鳥の狩り、どうすれば成功させる事ができるだろうか?
最初の頃はじっと、カルガモや、オナガガモを観察する姿が幾日も見られた。
この、獲物というか生き物をじっくりと観察する姿、夏に巣立った長男を思い出す。
オオタカのオスに共通する行動なのだろう。
狩りを成功させるのに最も重要な事は、相手を良く知る事。
その相手を知るための観察を、実行しているようだ。

最初のうち、大きなカモもよく観察していた
オオタカはカルガモを観察しながら、きっと、いろいろな事を思索しているのだろう。
狩りをする際、相手がどう反撃してくるか?、やられるほうは生命がかかっているので、命がけの反撃だ。
そして、足をかけたところで、反撃をかわし、どうやって絶命させるか?捕まえた後、持って運べるか?どこまで?などなど。
頭の中では、狩りをした場合のメリット、デメリットを、足し算引き算している事だろう。
カルガモは大きく力も強い。
だから、この時は、
反撃も激しく、絶命させたところで、カルガモは大きすぎるし、水中からではとても持って飛ぶ事は出来ない、との結論に至ったように見える。
それにしても、こんな近くでオオタカに真正面から、にらまれるカルガモの気分はどんなものだろうか。
カルガモは平静を保っているが、腰が引け、いつでも飛立てる準備でいる。
お互い、野生の世界、共生する隣人相手には、弱みは見せようとしない。
逃げないのであれば、相手に動揺していないところを見せなければ。
という事で、オオタカがターゲットに選んだ獲物は、サイズも一回り小さく、大きな群れを作らず、いつも数羽でいるコガモ君。
木の梢にいる時も、コガモの行動をずっと観察していたようだ。
最終的な結論として、こいつだったら狩りが出来る!という結論に至ったのだろう。
そしてハンティングにチャレンジするチャンスがやって来た。

近づけば潜ってしまうコガモ
見ていても動きの遅いコガモ、オオタカは簡単に捕まえられると見越していたのだろう。
でも、近づくとコガモはすぐに水の中を、深く潜ってしまう。
はたして潜っているところを、捕まえられるだろうか?
オオタカは空中を何度もホバリングしながら狩りに挑戦するが、コガモは近づく度にすぐに水中へと潜ってしまう。
オオタカが空中をホバリングする時間よりも、コガモの方が長く水中に留まっていられる。
なかなか一筋縄ではいかないようだ。
大きなオオタカが、空中をホバリングするのには大きなエネルギーが必要なので、そうそう長くは続かない。
動きが、遅かったり、武器という武器を持っていない生き物、こんなふうに生きるための隠し技を持っている場合が多い。
コガモの武器というか防具は、水中に長くとどまって身を守る事のようだ。

水の中にダイブしてみた
この場所は水深も深く、オオタカの足は川底に届かない。
下手すれば、自らが溺れてしまう。
水中に足を伸ばしても、コガモを触る事も出来なかったようだ。
というか、コガモは既に水中を泳いで逃げて、この下にはいない事だろう。
水深が深かったおかげで、オオタカに狙われていたコガモ、なんとか難を逃れる事が出来た。
オオタカは何度もこのコガモの狩りに挑戦したが、この日、捕まえる事は出来なかった。
何度も襲われそうになったコガモ君、難を逃れて、とにかくほっとしている事だろう。
オオタカは、今回の挑戦の失敗で何かを悟ったようだ。
「水深が浅ければ、コガモが逃げる事が出来ない。」
「水深の浅いところのコガモを襲えば、きっと捕まえられる!」という事。
そして、翌朝。

次の日の朝、既に狩りは成功させていた、足の下にはコガモ
次の日の朝、オオタカはコガモの狩りを成功させていた。
見つけた時には既に、狩りを終えた後。
オオタカはコガモを水中に押さえつけ、呼吸を出来なくして殺そうとしているようだ。
この場所はオオタカが立てるほどに水深も浅く、コガモは逃げ失せる事が出来なかったのだろう。
そのおかげで、オオタカは狩りを成功させる事が出来た。
オオタカは、この場所は水深が浅く、ここで狩りをすればこの前のように、コガモが水中に逃げる事が出来ず狩りを成功させる事が出来ると、目星をつけていたようだ。

何とか、捕らえた獲物のコガモを岸辺へと運ぶ
水中にしばらくコガモを押さえつけて、しばらく水中にいたオオタカ自身の羽も水に濡れ、揚力は普段よりも失われているはずだ。
でも、獲物を水面に引きずり、何とか岸辺にたどりつくことが出来た。
オオタカの羽は、あれだけ長い間水に使っていたにも関わらず、殆ど濡れていない。
羽の手入れも十分行き届いているようで、防水が効いていたようだ。
いつもながらというか、水鳥の狩りに備えいつも以上に羽の一枚一枚に脂を塗り込み、準備も十分に整えた上で狩りに挑んだのだろう。
狩人の王者、オオタカのオスの羽がいつもつややかなゆえんなのだろう。

やっとの事しとめた大きな獲物
呼吸を整えるために、しばらく岸辺でじっとしていた。
この狩り、水中を暴れるコガモを抑えつけるため、相当の体力を消耗しただろう。
はたして、こんな大きな獲物を持って、飛ぶ事は出来るのだろうか?
オオタカの頭の中では十分にシュミレーションされているはずだ、「何とか飛べる!」と。
しばらくしてから、意を決し、岸辺を飛立った。
獲物を掴んでいるので、いつものように、地面を蹴る事も出来ない。
今までに運んだ中では、きっと最大級の獲物のはずだ。

全力で羽ばたくが、なかなか上昇していかない
なかなか上昇しないが、速度が付けば揚力も上がり目的の木の枝に辿り着く事はできるという事は、計算ずくのようだ。
羽が濡れていては、とてもコガモを持って飛ぶ事は出来なかっただろう。
こんなところにも、行き届いた羽の手入れが生かされている。
空を飛ぶ鳥にとって、羽の手入れは非常に重要だという事だ。

獲物を持ってやっとの事辿り着けた木の枝
やっとの事辿り着けた木の枝。
この場所は、安定も悪く、大きな獲物をさばくのにはあまり向いていないようだ。